非平衡現象の理論、非線形ダイナミクス(カオスを含む)から、 生命現象の基礎理論の研究を主に行っています。研究室でダイナミックな現象への関心は 共有されていますが、特定の問題に研究課題が制限されているということはありません。 ぼく自身の現在の主たる研究興味は、複雑系生命科学の構築ーーー分子ー細胞ー個体ー生態系といったように、スケールの異なる階層間 の相補的な循環を持ち、そのダイナミックスの中からミクローマクロ間の整合的な関係がうまれていく、柔らかで安定した生命システムの 理解ーーです。研究では非平衡現象論、非線形ダイナミクス(カオスを含む)、統計物理などを背景にしていますが、もちろん従来の理論では おさまらない、新しい生命システムの理論構築をも目指しています。また、そうした生命現象の面白さに想を受けて、もっと抽象的な 面白い(大自由度)カオスダイナミクスや非平衡現象の理論研究も行っています。
・ 生命現象の基礎物理: 研究のベースにはゆらぎ、ダイナミクスという統計力学、非線形物理で培って来た考え方があります。 一方、この数年、細胞内の状態のゆらぎや分布を測定する手法が急速に進歩し、生物学実験が定量的次元 (物理の中にquantitative biologyというsectionができたりしています)になったため、物理の理論と 生物実験がタイトに結びつくようになってきました。今までは、生物に興味を持っていても 理論物理側からやると机上の空論になりかねなかったのですが、状況が一変しつつあります。 広がりつつある分野なので、世界的にも20代、30代の若手が新しい結果を出し活躍しています。(当研究室の メンバーや出身者も活躍しています。)
ただし、細部まで合う理論モデルをつくるというよりも、生命(複製、代謝、遺伝、適応、記憶、進化、多様化など)の基本原理を見出し、理論化していくことが目標です。特に 異なる階層間の整合性(分子と細胞の複製、細胞のダイナミクスと個体の発生、遺伝子と表現型(進化と発生))の形成、またその破れによる新奇性の発現に興味があります
・ その一方で、生命現象から抽象化された生命システムの理論の構築や、 (いますぐ成果はでないかもしれない)社会のダイナミクスや認知過程にも興味を持って、考えています。
・背景(これまでの研究の履歴) - 非平衡現象論/確率過程
カオス、時空カオス(Coupled Map Lattice)
カオス大域結合系、大自由度カオス(Coupled Map)
理論生物物理
- 分子機械システムの理論
- 非平衡性の維持条件(反応系でのガラス的振る舞い)
- 増殖するシステムの一般法則、細胞状態ののゆらぎのみたす普遍法則の理論
- ゆらぎを用いた、外界への適応過程
- 反応ネットワークからの履歴、適応、記憶の生成のダイナミクス
- 生物の可塑性の記述
- 進化と表現型ゆらぎの関係
- 安定性(robustness)の進化
- (遺伝)情報系の起源、一般に生命(細胞システム)の起源
- 細胞社会の発達過程(細胞の分化とそこでの「時間の矢」の理解)
- 多細胞生物としての個体の起源
- 相互作用をベースにした進化理論
- ネットワークの進化条件、合体共生の条件
- 生態系の多様性ダイナミクス
・力学系としての生命現象/複雑系としての生命科学 (*ここで複雑系は、ミクロマクロのダイナミックな循環を持つ系としての意味に 用いている。ミクローマクロのコンシステンシーの原理、状態遷移則、時間スケール干渉の解明)
・生命系に対する普遍的現象論の構築(内的自由度、ふえる、相互作用: 安定性 不可逆性)
・可塑的力学系からの論理の生成(シンボル形成のダイナミクス)
*阪大(四方、柳田)グループの生物物理実験とタイトかつルースな連携
※実験プロジェクト(ERATO複雑系、澤井グループリーダー)も行っているので、理論ー実験の共同研究も可能
認知のダイナミクス、社会システムの理論に向けて??
- 上記生命システムの理論を認知の発達へ拡張??
- 操作つき力学系の理論
- 関数力学系
- 社会システムの発展過程
- ゲーム理論vs力学系
非線形力学系 非平衡現象
- 「生命らしい」性質がいかに非平衡系、力学系に宿るか
- 大自由度カオス
- 集団運動、遍歴、弱いアトラクター、etc.
- (複雑な振る舞いを示すための)自由度の問題
- (ハミルトン)力学系による(エネルギー)変換
- 平衡へ緩和しにくいシステムの理論
- その他 時空カオスなど 自然のダイナミックな現象
院志望の方へのコメント
* 強い目的意識や個性を持った方向き
*大学院生は独自の(or相補的な)視点を持った自立した 研究者としてつき合う(むろんM1で知識が足りないのは かまわない、しかし自分で興味をもち、つねに自分で 問題を考え出そうという姿勢は必要)
* 理論、コンピュータ実験の結合した研究スタイル (重みの置き方は個人ごと)
*生物理論をやる場合、生物の細部の知識が必要というわけではない。これも個人ごと。ただし、細部に 流されるよりも、しっかりした物理の考え方が必要。
*共同の生物実験グループがあるので、よい理論は検証できますし、その計画を共同でたてることも可能。ただし 僕自身は実験の経験はないので実験自体の指導はできません。実験を自ら行う場合は共に研究を 行っている研究室との共同。