研究紹介4---研究履歴


生命現象に興味を持ちつつ 非平衡現象論 研究を始める (修士)
散逸構造に影響を受けつつ 確率過程を用いた非平衡相転移の研究など行う。

カオス (博士過程ーー )
*カオスの発生のしかた、特に 準周期運動からカオスの誕生への機構を 主に簡単なマップでの発見にもとづいて行う。(トーラスのフラクタル化、ダブリング、ロッキングのスケーリングなど)

*大自由度のカオス系を意識してカオス結合系の研究の始めに2個の写像結合系でのカオス化の研究など。

なお、ここまでの研究をまとめた博士論文は
K. Kaneko, Collapse of Tori and Genesis of Chaos in Dissipative Systems (World Sci. Pub., 1986, 264 pages : based on thesis of 1983)
に出版されている

時空カオス (博士、PD、助手ーー)
*時間的なカオスと空間的なパタンのからみあいに興味を持ち Coupled Map Lattice (CML) というクラスの力学系を導入、その簡単な例での 現象クラスを調べ、そのしかけをさぐる、など。 (実験的には 流体や化学反応などの非平衡現象と対応)

現象クラス特に、空間的なダブリング、時空間欠性転移などの普遍的な性質、下流に向けてのカオス化、 集団運動、 パターンの空間分岐、カオステキ伝播波など 一般的で面白い現象をみつけ その力学系/統計力学的 解析などをおこなった(リヤプノフスペクトル、流れにそったリヤプノフ指数など)。また、CMLによる対流や雲のパタンのモデル化などをも行った。 CMLは数学、物理で基本的なモデルとして広く調べられるにいたったが、「カオスの場の理論を作る」(日本物理学会誌 1988 vol 43 689-697)という 目標については不完全燃焼。

この結果は、例えば
K. Kaneko ed, Theory and Applications of Coupled Map Lattices} (Wiley), 1993
K. Kaneko ed, ``Special issue on Coupled Map Lattice" Chaos 2 (1992)
複雑系のカオス的シナリオ (朝倉書店)、 1996 金子邦彦、津田一郎 (F1) 4章
K. Kaneko and I. Tsuda Complex Systems: Chaos and Beyond -----A Constructive Approach with Applications in Life Sciences (C) (Springer, 2000) pp 1 - 273 の 3章
など。

大自由度カオス特に大域結合カオス(ロスアラモス Ulam Scholar、助手ーー)
CMLの平均場versionとも考えられる Globally Cupled Map(GCM)を導入した。 これはおそろしく簡単なモデルであるにもかかわらず、 クラスター化、階層的クタスター化、カオス的遍歴、 非自明な集団運動、、、という大自由度系での新しい基本概念が相次いでみいだされた。
(ついでにいえば、ここで同じ要素が階層的にクラスターを作れるというびっくりをみて 分化みたいだなぁというのが生物にはいっていくtriggerになった)。

特に集団運動はミクロなカオスダイナミクスとマクロな運動の非自明な関係を調べたもので、 様々な研究が行われている。一方、池田研介、津田一郎両氏と提唱したカオス的遍歴は、大自由度力学系 の普遍的現象として広がっており、脳や生命の問題関連も議論されている。1997には、これをMilnorAttractor間の 遷移としてとらえる見方を提唱した。また、こうした現象が「大」自由度系で普遍的に見られること、とくにその 「大」自由度は5−10程度以上(MagicNumber 7+-2)以上で起こるという仮説を提唱した(2002-)。このMagic Numberは 階乗とべき乗のクロスオーバー点で始まるという簡単な理論で多少気に入っている。

これは
K. Kaneko ``Clustering, Coding, Switching, Hierarchical Ordering, and Control in Network of Chaotic Elements", Physica 41 D (1990) 137-172
上記の本 F1の5章、Cの4章、また K. Kaneko and I.Tsuda ed, ``Special issue on Chaotic Itinerancy" Chaos 13 (2003) 926-
など。

生命現象に向けての遷移期 (89-93)
力学系研究をふまえて、多様性、共生、行動の進化に興味を持ち始める。 力学系vsゲーム理論の出発点としてまねゲーム、多様性とダイナミックな安定性を 池上さんと議論したホメオカオス(いまだ理論的に整備できずにとどまっている)など。

意外なことにWentian Li氏に軽くすすめた DNA配列の1/f研究は後広く行われている。遺伝子重複をふまえてそうなるだろうと予言したとおりになり、また Bioinformaticsを統計力学的の観点からおこなう研究の先駆にはなったかもしれないが、あまり生物の本質とは 関係ないだろうと思う。

このあたりは
複雑系の進化的シナリオーー生命の発展様式ーー(朝倉書店) 1998 金子邦彦、池上高志

複雑系生命科学(93-
これは現在にもっともつながっているので 紹介1、2、3、5などをみてください。 *複製:(細胞が複製するための条件としての普遍統計則を発見し、遺伝子発現解析で検証。タンパク濃度のゆらぎの対数正規分布 の理論的提唱と実験的検証。遺伝情報の起源における少数成分分子の重要性。*適応;柏木ー四方らの実験と対応して、シグナル伝達系がなくても、揺らぎと増殖のある系では細胞は 外界に適応できることを提案。*細胞分化、発生;内部に反応ダイナミクスを持つ系が相互作用しながら増えるという設定で、安定した発生、細胞分化過程を示すことを理論的に示す。特に古澤さんと ともにES細胞からの不可逆分化過程を力学系モデルで説明。この細胞分化理論で予言した、不可逆性と自由度上昇による回復は近年のiPS細胞で検証されたといえるかもしれない。 またES細胞=多様でカオス的遍歴を含むダイナミクスという見方が成り立つかの実験的検証は待たれる。*進化;統計力学での揺動応答関係を拡張して、(遺伝子によらない)表現型ゆらぎと 進化速度が比例することを提唱し、モデル、実験で確認。また遺伝子変異の揺らぎと遺伝子由来でない(ノイズによる)揺らぎの間の関係、さらには安定性の進化の理論を提唱(実験で検証中)。 相互作用による表現型の分岐が遺伝的に固定される過程として種分化(多様化)の理論を提唱など。

論文リストの最近のもの、パリティ、物理学会誌での解説など参照。まとめたものとしては、「生命とは何か;複雑系生命論序説」2003


生命現象に刺激された統計物理、力学系の研究(98-
化学反応系のダイナミクスや分布に関する研究(富樫さんとの分子数の離散性による転移現象、触媒化学反応系で平衡への緩和が抑えられる(’ガラス的’)しくみ)。 異なる時間スケールを持つ力学系の研究など。

補足
* 大自由度でのハミルトン系は 小西さんとの80年代後半の研究に始まって、 最近の中川さんとの大自由度ハミルトン系でのエネルギー変換としての分子機械研究 にいたるまで 研究を続けている。特に最近は、励起した状態から、平衡にはなかなか緩和できないという現象の普遍性に興味を持っている。特に   森田さんが長距離相互作用系では、平衡にいくまでに実質無限に時間がかかり、その間でに集団運動(個々はカオスだけれど平均場の振動が続く)の発見をしている

* 認知過程: 脳のダイナミックな過程には興味はあるのだが、いまのところ周辺をかすめている だけかとも思う。ただし、細胞分化で示して来たことは 認知発達過程などにもつながるとは思うし、 またGCMが普通のneural netよりも 認知のダイナミクスのモデルとして優れた点があるとは 思っているが 「これだ」って 理論の提出に至っていない。 また、片岡さんとの関数マップは 認知の問題につながりうる数理的に豊かなモデルとは思っているが、認知とつなぐための missing linkがまだみつかっていない。